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熊本地方裁判所 昭和24年(行)30号 判決

原告 安尾長博 ほか一名

被告 熊本県農地委員会

一、主  文

原告安尾長博の本訴請求中別紙目録記載農地(い)に関する部分の訴を却下する。

同原告のその余の請求及び原告安尾国重の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告両名訴訟代理人は「被告が昭和二十四年六月二十九日、原告安尾長博の別紙目録記載農地中(い)(ろ)(は)の三筆、同安尾国重の同目録記載(に)(ほ)(へ)(と)筆に対する各農地買収計画不服の訴願につき、夫々棄却した裁決処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として別紙目録記載農地中(い)は訴外安尾現、(ろ)及び(は)(の)二筆は原告長博、(に)(ほ)(へ)(と)の四筆は原告国重の各所有であるが、原告等居村の福田村農地委員会は昭和二十四年五月十三日その第十二次計画において右七筆に対する買収計画を設定公告するに至つた。よつて原告等は同月二十一日同村農地委員会に対し右計画を不服とする異議を申立てが同年六月四日却下せられたので、更に同月二十日被告委員会に訴願したところ、被告は昭和二十四年六月二十九日右訴願棄却の裁決処分をなした。ところで右棄却の理由として掲げるところは、要するに原告等は元々同居の親族であり同一世帯に属し本件七筆はその自小作地制限保有面積を超過する小作地であるから該計画に何等違法はない。と云うに在る。しかし乍ら右裁決処分は全く原告等の別世帯構成の事実を誤認した違法の処分である。元々原告等は父子の間柄ではあるが該計画設定当時既に分家を完了し別世帯を構成していた。即ち(イ)原告長博には妻安尾タマとの間に次男安尾現及び三男原告国重の二子があるが、右現は熊本県立青年師範学校を卒業し後教職において農業科を担当し原告国重は同県立農業学校を経て東京農業専門学校を卒業し、いずれも農業専門教育を身につけながら戦時中兵役に服していた者である。ところで昭和二十年八月下旬原告国重、次いで同年九月下旬安尾現の各復員帰郷を見るを得たので、昭和二十年十月一日親族一同会合し爾今安尾現は原告長博の後継者となつてその本家における農業経営を主宰し、原告国重は前記四筆を含む母安尾タマ所有地全部の贈与を受けて右母と共に分家し、よつて各自の専門智識を生かす基本方針を確定するに至つた。次いで原告国重は昭和二十年十二月二十五日戸籍上の分家届を了し爾来母タマと共にその生計及び農業経営を独立せしめ、主食供出の割当を別別に受けてこれを完納する外その配給物資の受領、諸税金の納入等をも原告長博と別にして来つた次第である。尤もその住居のみは当時住宅払底であつた関係上、止むなく当初暫定的に従来の居住家屋に同居したが昭和二十二年四月中同村大字平田又千三百二十八番地に住宅兼農舎の建築竣工と共に遅滞なくこれに移住し現在に及んでいる。従つて前記買収計画設定当時原告等が夫々別世帯を構成していたことは明瞭であつて、其の世帯を別にするに至つた理由が農地法の規定を潛脱して農地の保有を企図したものでないことは勿論である。(ロ)次に当時原告長博は自作地一町六反九畝七歩、小作地四反一歩でその所有地総面積は二町九畝八歩である一方、原告国重は自作地一町六反三畝十九歩、小作地三反五畝十九歩でその所有地総面積は一町九反九畝十八歩で双方共制限保有面積二町八反に遙かに達しないのである。然るに同村農地委員会が原告両名を同一世帯なりと認定して前記農地を合算の上制限保有面積超過として設定した本件買収計画には該買収上の要件に違反してなされた瑕疵があると云わなければならない。

よつて原告長博はその所有地(ろ)及び(は)の二筆に併せ同居の親族安尾現所有の(い)の農地についても利害関係があるので、右三筆につき原告国重はその所有地(に)(ほ)(へ)(と)の四筆につきそれぞれ前記裁決処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ旨陳述し、被告の答弁事実中本件買収計画設定当時の原告両名と其の家族の所有農地の面積及び本件七筆がすべて従前より小作地であることは認めるがその他の事実は否認する。本件買収計画はその設定時現在による超過買収計画でいわゆる基準日による遡及買収計画ではないので同村農地委員会は之に対し従来遡及買収としての考慮を払つたことはなかつた旨述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告両名主張事実中別紙目録記載農地中(い)(ろ)(は)三筆の所有者及び(に)(ほ)(へ)(と)四筆の登記簿上の所有名義人がいずれも原告主張通りで右各物件につき原告主張の買収計画が設定せられたこと、これに対し原告がその主張の如く異議訴願し被告からその主張の裁決処分を受けたこと、原告両名、訴外安尾現、同安尾タマ間の身分関係並びにその主張の分家届がなされた事実は認めるがその他の点はすべて否認する。

即ち(一)本件(い)の農地が原告長博の所有に非ずして訴外安尾現の所有であることは同原告の自認するところであるから原告長博の本訴請求中右(い)に関する部分は既に当事者適格を欠き失当である。

(二) 前記(に)(ほ)(へ)(と)四筆の農地は訴外安尾タマの所有であり、同訴外人より原告国重に贈与せられた事実はないので同原告は右四筆に対する買収計画を不服とする訴願権を有せず従つて又同原告は右四筆に対する訴の利益を有しないのであるから本訴請求も失当である。

(三) 仮に右(一)(二)の主張が理由がないとしても原告等は基準日においては勿論前記買収計画設定当時においても前記安尾現及び安尾タマ等と共に同一家屋に居住し全く一個の生活共同体を構成していたもので、右世帯員の所有する自小作地の総面積は法定の制限面積を超過していたのであるから該買収計画に何等違法はなかつた。即ち原告両名と訴外安尾タマ同安尾現等の身分関係は原告の主張するとおりであつて原告長博と同人の妻タマとが原告国重の分家にともない各別の世帯に属して別居するといふが如きことは特段の事情がなければならないのにこれに首肯するに足る何等の理由もない。従つて通常の経験則よりしてもそれが真実の生活関係とは思われないのであつて、右の如き別居はそれ自体農地買収処分を不法に免れんがためになされた通謀による仮装のものと断定すべきである。もとより自作農創設特別措置法にいわゆる同居の観念は客観的な世帯の同一なるや否やにより決すべきものであり、右の如き当事者の単なる主観や外形的仮装の事実には何等とらわるべきでないことは言ふまでもないことで、原告国重が原告長博と世帯を別にしたのは客観的にみて昭和二十四年七月中であつたから、前記買収計画設定時においては尚その父母等と共に同一世帯内に在つたことは相違ない。而て原告等の所有地はそれまでの数次の買収を経て尚当時原告長博において田一町五反二畝十二歩、畑二町七畝二十六歩、同国重において畑一反三畝二十五歩、訴外安尾タマにおいて田八反一畝十二歩、畑二反五畝二十七歩、訴外安尾現において田五反八畝四歩、畑五反六畝五歩が夫々保有せられていた。しかもそのうち自作地のみで三町五反二畝二十七歩に及び、右保有地は同村に於ける制限面積二町八反を遙かに超過しており本件七筆の農地はすべて小作地であつた。そこで同村農地委員会はその職権に基き本件農地の買収計画を設定したのであるが、その際原告等が一世帯に属するか否かに付ては昭和二十年十一月二十三日の基準日以降右計画設定当時に至るまでの一切の事情を考慮し、結局原告両名は右計画設定の昭和二十四年五月十三日に至る迄引続き同一世帯に属するものと認めたので該買収計画は言わばその設定時現在及び右基準日双方による計画の性質を具えていたのである。

以上の通りであるから前記計画はその設定時現在の超過買収として有効であることは勿論、仮に原告等が当時において別世帯を構成していたとしても尚遡及買収計画としては有効である。従つて右何れにせよ該計画は適法であり、これを不服とする原告等の訴願はその理由がない。よつてこれを棄却した被告の裁決処分は相当で原告等の本訴請求はすべて失当に帰する旨陳述した。(立証省略)

二、理  由

原告等居村の福田村農地委員会が昭和二十四年五月十三日その第十二次計画において別紙目録記載農地七筆に対する買収計画を設定公告したこと、原告等がこれを不服とし、その主張の日異議訴願をなしたこと及び被告委員会が昭和二十四年六月二十九日右訴願棄却の裁決処分をなしたことは当事者間に争がない。

第一(買収計画の対象となつた農地の所有関係と当時者適格等の問題)

そこで先づ買収計画の対象となつた農地の所有関係及び之に関連する原告等の当事者適格などについて見る。

(一)  (原告安尾長博の関係)

別紙目録記載農地中(い)が訴外安尾現、(ろ)及び(は)が原告長博の所有であることは当事者間に争がない。原告長博は訴外安尾現はその同居の親族であるから右(い)についても利害関係があるとしてこれに関する前記裁決処分の取消を求めているのであるが、元々行政処分の取消を求める訴の正当の当事者となるためには当該行政処分の違法を主張するにつき法律上の利益を有する者でなければならない。しかるに同原告は右農地の所有者でも又耕作権者でもなく単にその所有者と同居の親族であると云うことのみでは、その共同生活に伴う事実上の利害関係はあつても到底該処分により具体的な法律上の権利の侵害を蒙る立場に在るとはなし難いので、同原告には元々右農地の買収計画及び該裁決処分の違法を争う法律上の利益がなく、従つて同原告の本訴請求中右(い)に関する部分については既にその当事者適格を有しないものと云わなければならない。

(二)  (原告安尾国重の関係)

別紙目録記載(に)(ほ)(へ)(と)の四筆が登記簿上訴外安尾タマの所有名義となつていることは当事者間に争がないが原告国重は右四筆をタマより贈与せられた旨主張するのでこの点について見る。同原告が原告長博及び右タマ夫婦間の三男で、一方訴外安尾現が次男であること及び右両名がいずれも農業専門教育を受けていたが先に兵役に服し終戦後同原告は昭和二十年八月下旬、右現は同年九月下旬夫々復員帰郷したことは当事者間に争がなく、原告長博同国重各本人訊問の結果によつて成立を認める甲第四号の二に証人西村茂、原告両名各本人訊問の結果を綜合すれば、原告長博等はその子現及び原告国重両名の帰郷を迎えるに及び其頃原告等一家の方針として爾今右両名を郷里に留めて農業経営に従事せしめることが協議せられたこと、そうして昭和二十年十月一日の親族会議の席上において(イ)原告国重は分家して一家を創立すること、(ロ)安尾タマはその所有地全部を同原告に贈与すること等の約定による分家協定がなされ、よつて其際訴外安尾タマよりその所有の本件(に)(ほ)(へ)(と)四筆の農地が原告国重に贈与せられたことを認めることができる。尤も成立に争のない乙第十七号証、同第十九号証中には訴外安尾タマ所有地を表示して耕作農地の申告をなしていることを認め得るけれども、右は単に登記簿上の名義に従つたものとも解し得るので、これらの証拠を以ても直ちに前記認定を覆すことはできないし他にこれを左右するに足る証拠はない。して見れば原告国重は右贈与により右四筆を所有するに至つたと云うべきであるから、該裁決処分の取消を求める利益を有すること云うまでもなくこの点に関する原告の主張は理由がない。

第二(原告安尾国重の別世帯構成の時期)

よつて原告長博の前記(ろ)(は)の二筆、同国重の前記(に)(ほ)(へ)(と)四筆に対する請求の関係において原告国重が果して何時別世帯を構成するに至つたかについて判断を進める。この点につき原告等は昭和二十年十二月二十五日分家届の頃であると主張し、一方被告は原告国重は昭和二十四年七月に世帯を別にしたもので該買収計画設定時においては尚その父母等と居宅及び生計を同一にしていた旨主張し、その間双方の見解には甚しい差異がある。そうして本原告等主張に副う証人西村茂の証言及び原告両名各本人の供述の各一部並に被告の主張に副う証人川田宏(一回)及び同川俣敏行の各証言の一部は後記の各証拠と彼此照合し信用し難く其の他同原告提出援用の全証拠によつても右別世帯構成の時期についての原被告の主張はいづれも事実に合致するものとは認め難い。

ところで自作農創設特別措置法第四条第一項にいわゆる同居とは必ずしもその居住家屋の同一であるか否かによるものではなく、その生計及び農業経営を共同にする独立の農業企業体としての世帯を云うと解すべきであるが、結局右同居の有無は主観的な意思のみにより定まるものではなく客観的な諸般の事情をも考慮してこれを判断するの外はない。そこでこれを本件について見れば原告国重が昭和二十年十二月二十五日戸籍簿上の分家届を了したことは当事者間に争がなく、前記甲第四号証の二、成立に争のない甲第一号証の一、二、同第二号証の一、二、同第三号証に証人浜田軍蔵、同村上三蔵、同西村茂の各証言、原告両名各本人の供述の一部及び検証の結果を綜合すれば、(イ)原告国重は昭和二十一年七月中同村大字平田又千三百二十八番地の肩書住所に住宅兼農舎一棟の建築に着手し、昭和二十二年四、五月頃右農舎の竣功と共に同原告がこれに宿泊する如くなつたこと、しかし尚其頃食事等は依然原告長博宅においてなしていたこと、(ロ)昭和二十三年七月前記母屋の完成と同時に原告国重が母タマと共に之に移住したこと、(ハ)昭和二十二年度以降原告両名が米麦甘薯等の供出並に之に伴う肥料報償物資等の受給関係を別にしていたこと、(ニ)昭和二十三年度より県民税及び村民税を原告両名が各別に納入していることが夫々認められる。従つて以上の事実を綜合すれば原告国重は昭和二十三年七月中に前記家屋が完成し肩書住所に移転を了した時を以て原告長博と全くその世帯を別にするに至つたものと認めるを相当とする。して見れば原告両名及び訴外安尾タマ、同安尾現が昭和二十年十一月二十三日の基準日当時同居していたことは明かであるが、本件買収計画設定当時においては原告両名は既に別世帯を構成していたものと言はねばならない。

第三(買収計画設定の基準)

そこで本件買収計画設定に際し果して前記基準日における事実が考慮せられていたか否かについて見る。成立に争のない乙第二号証に証人浜田軍蔵、同西浅吉、同楠田斧介の各証言、原告安尾長博本人訊問の結果を綜合すれば、原告長博は従来再三に亘り同村農地委員会に対し原告国重の分家を主張し農地買収上二世帯としての取扱方を要望していたが同村農地委員会は本件買収計画を設定するに当り原告国重の分家の事実は認めるが右分家の届出が右基準日より一ケ月後になされていること等諸般の事情を考慮し結局其際原告等を以て昭和二十年十一月二十三日の右基準日当時においては勿論、右買収計画設定時に至るまでの間同一世帯であつたと認定して右買収計画を設定したことを肯認することができる。

即ち本件買収計画設定時を基準とするものであると同時に基準日を標準とする遡及買収にも該当するのであつて基準日当時における農地の所有者と同居していた親族が後に至つて別居した場合には、同日以後に所有者の変更があつた場合と同視すべきであるから当然右基準日の事実に基いて買収し得ると解するのが相当である。

第四結び

そこで以上第二、第三で認定した事実を綜合すれば原告両名は昭和二十年十一月二十三日の基準日当時は同一世帯であつたが、本件買収計画設定時には既に別世帯を構成していたこと及び福田村農地委員会は右計画設定時並に右基準日双方の事実に基き本件買収計画を設定したことが明かであり、原告両名が右計画設定時に保有していた農地の合計は本件の七筆を除いても同村の保有制限面積二町八反を下らず、且つ本件農地が全部小作地であることは原告等の自認するところである。従つて原告両名を同一世帯に属するものとして立てた本件買収計画はその設定時を基準とするものとしては失当であるが、尚遡及買収計画としては有効であると云わなければならないので該計画を不服とする原告等の訴願を棄却した裁決処分も亦相当である。よつて原告長博の前記(い)の農地に対する訴願裁決処分の取消を求める部分は当事者適格を欠くものとして却下し、同原告の(ろ)及び(は)の農地に対する請求並びに原告国重の(に)(ほ)(へ)(と)の農地に対する請求はいずれも理由がないものとして之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を夫々適用し主文の通り判決する。

(裁判官 浦野憲雄 安仁屋賢精 松本敏男)

(目録省略)

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